2024年版 対象別公衆衛生看護活動論(感染症保健)のまとめ

目次

感染症保健概論

感染症保健のキーワード

感染とは:病原体となる微生物(細菌、ウイルス、真菌など)が、宿主となる生物に侵入し、増殖すること。

アウトブレイク:通常発生しない感染症が発生したりすること。
エンデミック:特定地域に長時間流行すること。
エピデミック:ある地域や集団において一定期間、通常に比べて高い頻度で発生すること。
パンデミック:流行が国境を越えて広範囲に流行すること。

感染源対策の基本:感染源の特定、消毒、隔離

直接伝播には:接触感染、飛沫感染、垂直感染がある。

間接伝播には:水系感染、食物感染、媒介動物感染、空気感染(飛沫核感染)がある。

積極的疫学調査:保健所が中心となり、人・時間・場所に関する情報を聞き取り、感染源や感染経路を特定。
また調査結果をもとに流行曲線や量、反応関係、マスターテーブル等を算出し感染源や感染経路を特定する。

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」の要点

① 事前対応型行政、② 人権の尊重、③ 感染症の類型化、④ 新規の感染症への対応
都道府県は「感染症の予防の総合的な推進を図るための基本指針」に基づき予防計画を定めなければならない。
厚生労働大臣は予防施策が必要な感染症について、特定感染症予防指針を作成し公表する。

都道府県知事は、1〜3類感染症・新型インフルエンザ等感染症の患者に対して、感染症をまん延させる恐れのある業務への就業を制限することができる(飲食物に直接接触する業務や接客業等)。また感染症指定医療機関への入院を勧告することができる。

感染症サーベーランスとして、感染症発生動向調査事業が行われている(調査の対象は全数把握対象疾患と定点把握対象疾患)。
全数把握対象疾患とは:新感染症疑い、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、1〜5類感染症をさす。
国は中央感染症情報センターを国立感染症研究所感染症疫学センター内に設置している。

感染症保健活動の変遷と沿革

わが国の感染症対策は1897(明治30)年に制定された「伝染病予防法」に基づいて進められてきたが、環境の変化に伴い変革が求められるようになり、1999(平成11)年に伝染病予防法が廃止され「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」が施行された。

感染症法施行後もSARS、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)、MERS、エボラ出血熱、ジカ熱、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等が社会的影響を与え法改正が繰り返された経緯がある。

2019(令和元)年12月に中華人民共和国湖北省武漢市において確認された新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に拡大。
2020(令和2)年3月にはWHOが世界的なパンデミックを宣言。
日本では2020年2月に指定感染症、2021年2月には新型インフルエンザ等感染症に定められている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021(令和3)年2月より新型インフルエンザ等感染症に分類されていましたが、2023(令和5)年5月8日からは5類感染症に位置付けられています。

積極的疫学調査とは
感染症法に基づき、都道府県知事・厚生労働大臣は、感染症の発生状況や原因を明らかにするため、必要がある場合には職員(保健師等)に必要な調査(積極的疫学調査)をさせることができます。

感染症法の対象となる疾患

感染症類型:1〜4類は保健所を経由して都道府県知事に直ちに届出

1類感染症エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
*感染力、罹患した場合の重篤性等から危険性が極めて高い感染症

2類感染症急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ(H 5N1)・(H7N9)、中東呼吸器症候群(MERS)
*感染力、罹患した場合の重篤性等から危険性が高い感染症

3類感染症コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
*特定の職業就業で集団感染を起こしうる感染症

4類感染症E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ(H 5N1、H7N9を除く)、ボツリヌス病、マラリア、野兎(と)病、ジカウイルス感染症、その他
*動物、飲食物などを介して感染

5類感染症インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ等を除く)、ウイルス性肝炎(E型、A型を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、その他

  • 新型インフルエンザ等感染症
    新型・再興型のインフルエンザ、新型・再興型のコロナウイルス感染症
  • 指定感染症
    政令で1年間に限定して指定された感染症
  • 新感染症
    伝染力や重篤度から判断した危険性が極めて高い感染症

新型インフルエンザ等対策特別措置法とは

2012(平成24)年に制定され、2013(平成25)年に施行された法律。
政府は新型インフルエンザ等対策政府行動計画を定め、下記の計画に基づき対策を行っている。

  • 未発生期:事前準備の計画作成
  • 海外発生期:国内発生に備えた体制整備
  • 国内発生早期:流行ピークを遅らせる対策、感染拡大に備えた体制整備
  • 国内感染期:被害軽減、必要なライフライン事業活動を継続
  • 小康期:第二波に備えた評価、医療評価、社会経済活動の回復

緊急事態宣言とは:
新型インフルエンザ等が国内発生し、全国的かつ急速なまん延により国民生活・国民経済に甚大な影響を及ぼし、その恐れがある事態が発生したと認めるときに出される宣言(政府対策本部長である内閣総理大臣が発令)。

緊急事態宣言が発令された場合:都道府県は住民に対し、期間と区域を定め、みだりに外出しないこと、基本的な感染対策の徹底を要請する。

特定区域における事態発生に関しては、まん延防止等重点措置が公示される。

予防接種とワクチン

生ワクチン:麻疹、風疹、結核(BCG)、水痘、ムンプス等、ロタウイルス(経口接種)

2020(令和2)年10月より、注射生ワクチン接種後に異なる注射生ワクチンを接種する場合のみ27日間以上の間隔をおくこととされ、その他には制限がなくなった。
妊娠中の生ワクチン接種は禁忌である。

不活性化ワクチン(狭義):百日咳、ポリオ(急性灰白髄炎)、日本脳炎、インフルエンザ、Hib感染症、肺炎球菌感染症、HPV感染症、A型肝炎、B型肝炎等

トキソイド:ジフテリア、破傷風

定期予防接種(A類疾病)とは

  • ロタウイルス感染症:生後6週〜
  • インフルエンザ菌b型(Hib)感染症:生後2ヶ月〜
  • 肺炎球菌感染症(小児):生後2ヶ月〜
  • B型肝炎:1歳に至るまで
  • ジフテリア/百日咳/破傷風/ポリオ(急性灰白髄炎):生後3ヶ月〜  2期は11〜13歳
  • 結核:1歳に至るまで
  • 麻疹/風疹:生後12〜24ヶ月  2期は5〜7歳
  • 水痘:生後12〜36ヶ月
  • 日本脳炎:生後6〜90ヶ月  2期は9〜13歳
  • ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症:小6〜高1相当の女子

定期予防接種(B類疾病)

  • インフルエンザ:基本65歳以上、毎年度1回
  • 肺炎球菌感染症(高齢者):基本65歳、1回

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防接種は、予防接種法の臨時予防接種の特例。
(mRNAワクチン・ウイルスベクターワクチン使用)

新興感染症と再興感染症

新興感染症:中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

再興感染症:結核、マラリア、黄熱、デング熱、炭疽、コレラ、ペスト等
〜日本では麻疹、結核、百日咳などが注目されている〜

おもな感染症と保健師活動

感染者対応の基本は標準予防策(スタンダードプリコーション)
血液・体液、分泌物、排泄物などは全て感染の危険があるとして手洗い、手袋、マスク、エプロン着用などの防護を行う。

HIV感染症・AIDS:5類感染症で全数把握疾患

後天性免疫不全症候群(AIDS)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によって引き起こされる。
感染後は6〜8週で抗HIV抗体が陽性となる。
数ヶ月から10年ほど経過すると、発熱、リンパ節腫脹、体重減少などが生じる。
2020(令和2)年末現在で、HIV感染者22,489人、AIDS患者9,991人と報告されている。
2008(平成20)年をピークに横ばい傾向。
感染経路は性行為、汚染された血液を介した感染、母子感染など。
新規HIV感染者の約85%が性的接触であり、同性間での接触が約70%を占める。

性感染症(STD)

性器、口腔等による性行為によって感染する疾患の総称。
梅毒、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋病感染症。
若者世代への予防啓発においては、地域の中学校や高校の養護教諭と連携協力しながら健康教育を行う。

ウイルス性肝炎

B型肝炎:1986(昭和61)年に母子感染防止策としてB型肝炎の母親から生まれてきた子どもに対しワクチン接種が開始され、以降は激減している。
近年、欧米型のB型肝炎(ジェノタイプA)が性行為等により増加。
2016(平成28)年10月より定期接種(A類疾病)に追加されている。

C型肝炎:血液を介して感染し、多くはキャリアとなり慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行していく。以前は輸血による感染が問題だったが、入れ墨(タトゥー)等の針の使い回しや不衛生なピアスの処置などによっても感染の危険がある。

麻しん・風しん

麻しん:発熱、発疹、カタル症状(咳、鼻水等)を主症状とする急性の全身感染症。
麻疹ウイルスは空気(飛沫核)感染、飛沫感染、接触感染で伝播。感染力は極めて強く、免疫がないと100%発症。
肺炎・脳炎で死亡する場合もある。予防接種が大事。

風しん:飛沫感染で、成人では重症化することがある(脳炎や血小板減少性紫斑病など)。
妊娠20週頃までに感染すると、出生児が白内障や難聴、先天性心疾患を特徴とする先天性風しん症候群を発症する可能性がある。

1962(昭和37)年〜1978(昭和53)年度生まれの特に男性は、子どもの頃に定期接種の機会がなかったため、風しんの免疫を持たないものが多い。
国が「風しんに関する特定感染症予防指針」(2014年3月告示、2017年12月改正)を定め、予防接種に対する積極的な接種勧奨を行うとともに、妊娠を希望する女性とその家族への接種を勧奨し風しん排除を目指している。

食中毒⇨「食品衛生法」に基づき24時間以内に保健所長に届出

食中毒の患者数で最も多いのは「ノロウイルス 4,733人(43.3%)」で、次いで「その他の病原大腸菌 2,258人(20.3%)」
*令和3年食中毒統計調査より*

細菌性食中毒(6〜8月を中心に発生)

  • 黄色ブドウ球菌:弁当、にぎりめし(潜伏期間は1〜6時間)
  • ウェルシュ菌:カレー(6〜18時間)
  • サルモネラ属菌:鶏卵、生肉(6〜48時間)
  • ボツリヌス菌:いずし、缶詰(12〜36時間)
  • カンピロバクター:生肉、生乳(2〜7日)
  • 腸管出血性大腸菌:生肉(3〜5日)

ウイルス性食中毒(11〜3月を中心に発生)

  • ノロウイルス:カキ等の二枚貝(潜伏期間1〜2日)

    経口、接触、飛沫、塵埃感染する。
    悪心、嘔吐、下痢、腹痛、発熱等の急性胃腸炎。
    消毒には塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)を使用。
    嘔吐物等を処理する場合は手袋、ガウン、マスクを装着し完全に拭き取る。

保健師が行う集団食中毒に関する指導

  1. 感染症予防講習会を開催する。
  2. 調理者の健康管理、手洗い、調理器具の消毒方法を指導する。
  3. 発症者と未発症者の居室を可能な限り分けるよう指導する。
  4. 集団発生が疑われる場合は初発の時期を同定する。
  5. ゾーニングして立ち入り規制するよう指導する。
  6. 汚物・嘔吐物等の処理時には窓を開放(換気)し、防水手袋を用いて処理後は衛生的に手洗いするよう指導する。
  7. 連絡調整の窓口を一本化して対応する。
  8. 入所者等の健康チェックを行うよう指導する。
  9. 原因となる食品を摂取した者には検便を行うよう指導する。

結核対策における保健師活動

結核とは

  • 抗酸菌の一種である結核菌の空気感染による感染症。
    結核菌は冷暗所で3〜4か月生存しうるが加熱や直射日光には比較的弱い
  • 感染症法では2類に指定されている。
  • 主に肺に病巣を形成するが、肺以外の臓器にも病変を認める。
  • 初感染時に発症する一次結核と、初感染時には発症せず体内残存菌が分裂・増殖し発症する二次結核(再燃)、さらに再感染(他者由来の結核菌が再感染)がある。
  • 感染者のうち結核を発病するのは1割程度。

日本の結核対策法令の推移

  • 1919(大正8)年   (旧)結核予防法
  • 1951(昭和26)年   (新)結核予防法
  • 2004(平成16)年  結核予防法改正によりBCG接種はツベルクリン反応を省略し直接接種。
  • 2007(平成19)年  結核予防法が廃止され「感染症法」「結核に関する特定感染症予防指針」へ移行。
    BCGは「予防接種法」へ移行。

結核の法令規定条項

感染症法の内容:結核指定医療機関、特定感染症予防指針、結核医療の公費負担、定期健康診断とその基準・受診義務、結核登録票(ビジブルカード)、保健所からの家庭訪問指導、医師からの指導等について明記されている。

予防接種法:BCG接種(定期A類疾病)生後12か月未満に直接接種 *ツベルクリン検査は実施していない。

日本における結核の現状

  • 結核は戦後減少傾向だったが、1997年に新規発生結核患者数、罹患率が共に上昇傾向がみられ、1999年に旧厚生省より「結核緊急事態宣言」が発令された。
  • 2020年末の結核登録患者は約32,000人と多く、特に高齢者の死亡率が高い。
    先進国中でも高い値が継続し、依然として重大な感染症。
  • 新登録結核患者の6割は70歳以上の高齢者が占めている。
  • 日本における問題点は、学校・医療機関・老人関係施設などの集団感染や多剤耐性菌の出現、高齢者や在日外国人(フィリピン、ベトナム、中国の順)における結核患者の増加があげられる。

結核の医療体制

結核患者および結核が疑われる者に対して

  • 治療開始時の喀痰検査など、潜在性結核診断時のツベルクリン反応検査・QFT検査
  • 治療中の検査(喀痰検査、胸部X線検査)
  • 結核の治療法(化学療法、外科的療法、装具療法)

インターフェロンγ遊離試験(IGRA  イグラ)
結核菌特異抗原刺激によりエフェクターT細胞から遊離されるインターフェロンを指標とした検査法。ツベルクリン反応検査ではBCG接種者が多い日本では偽陽性率が高くなるため、このIGRAが用いられるようになった。

喀痰検査の種類:抗酸菌塗沫検査(1日以内に結果)、培養検査(4、5日から数週間で結果)、同定検査(15分〜1日以内で結果)、薬剤感受性検査、遺伝子検査(おもに拡散増幅法)等

初回治療の場合

イソニアジド(INH)、リファンピシン(REP)、エタンブトール(EB)/ストレプトマイシン(SM)、ピラジラミド(PZA)の4剤を含んだ6ヶ月の治療。
妊婦、肝機能障害がある場合はPZAを除く3剤を9ヶ月使用。
その他の抗結核薬:レボフロキサミン(LVFX)、デラマニド(DLM)、べダキリン(BDQ)がある。

DOTS(直接監視下短期化学療法)

結核菌の薬剤耐性の獲得を防ぎ、確実に治療するためには、3剤以上併用の化学療法を6か月以上にわたり続けることが重要。

医療従事者が患者が服薬するところを実際に見て確認し、治療の失敗・脱落を防ぐ。
入院時に行う院内DOTSでは服薬習慣を身につけるまでの活動支援を実施する。
外来治療で行う地域DOTSでは、外来や保健所などの見守り、服薬後のパッケージ保管や残薬数のチェックなどを行う。

感染症法に基づく保健所の役割

発病予防(予防接種、潜在性結核感染症LTBI治療)、早期発見(定期健康診断、接触者健診)、患者登録管理(患者発生届、入退院届、患者登録、精密検査)、感染拡大防止(就業制限、入院勧告、移送、積極的疫学調査)、医療(医療費公費負担、感染症診査協議会、服薬支援)

健康診断の対象となった人は、2年間にわたって健康診断が行われる。
保健所が実施主体となり、コホート検討会を行う(年2回以上):DOTS対象者全員の分析検討等。

接触者健康診断の対象者区分

  1. ハイリスク接触者乳幼児(特にBCG未接種者)、免疫不全疾患、管理不良な糖尿病等
  2. 濃厚接触者:同居家族、生活や仕事で毎日部屋を共有、患者と同じ車に数回同乗、換気の悪い空間を共有等
  3. 非濃厚(通常)接触者:週1回程度、短時間あった等
  4. 非接触者

文 献

『標準保健師講座』編集室:「2023年版 医学書院 保健師国家試験問題集」、医学書院、2022.
医療情報科学研究所:「クエスチョン・バンク 保健師国家試験問題解説 2023-24 第16版」メディックメディア、2023.
一般財団法人 構成労働統計協会「国民衛生の動向・厚生の指標 増刊・第69巻9号 通巻第1081号」、2022.
医療情報科学研究所 編:「保健師国家試験のためのレビューブック 2023-24 第24版」、メディックメディア、2023.
医療情報研究所 編:「公衆衛生がみえる 2022-2023」、メディックメディア、2022.
荒井 直子 他 編:「公衆衛生看護学.jp  第5版 データ更新版」、インターメディカル、2022.
車谷典男・松本泉美 編:「疫学・保健統計ー看護師・保健師・管理栄養士を目指すー」健帛社、2016.

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