2024年版 健康危機管理のまとめ

目次

平常時の災害予防対策と保健師活動

地域の実態把握:市町村単位でしておかなくてはならないこと

① 災害時に収集すべき情報のリストを作成し、アセスメント方法等を決定しておく。
② 地区ごとに、管内医療機関等の連絡先・位置図を作成(マッピング)、掲示しておく。
③ 緊急対応の必要な事例および要援護者、療養者のリスト作成と保健指導票を整備する。
④ 地域活動を通して把握した保健・医療・福祉情報について、必要時に情報提供できるように整理しておく。
⑤ 有害化学物質の発生が考えられる工場などについては、保健所が労働基準監督署等と連携し、事故発生時に備えた知見の集積、医薬品の備蓄、環境汚染等への対策を構築しておく。

住民の把握:災害対策基本法において地域防災計画の策定が義務となっている(都道府県・市町村)

2013(平成25)年の法改正では市町村に高齢者、障害者、乳幼児等の防災施策において特に配慮を要する者(要配慮者)のうち、災害発生時の避難等にとくに支援を要する者の名簿(避難行動要支援者名簿)の作成が義務づけられた。
2021(令和3)年の改正では、避難行動要支援者の個別避難計画の作成が努力義務となった。

高齢者、児童、障害者などの避難誘導は市町村が担当し、難病患者、障害者、在宅人工呼吸器装着者、在宅透析患者などは保健所が担当し、医師会や医療機関と連携体制を構築しておく必要性がある。

住民への啓発活動

市町村は2021(令和3)年に改定された「避難情報に関するガイドライン」の発令基準に基づき災害情報を発令する。
「レベル3:高齢者等避難」「レベル4:避難指示」「レベル5:緊急安全確保」

災害対策マニュアル

市町村では首長を中心とした災害対策組織と情報伝達、避難、救助、災害時の緊急事態に対する施策、救急医療体制など、実情にあったマニュアル作成が義務づけられている。

教育普及啓発・防災リーダーの育成

保健師の予防活動としては、災害時に備え準備すべきこと、救急蘇生法、トリアージの意義、メンタルヘルスなどに関する知識の普及・啓発事業が大切になってくる。
地域における防災時のリーダーを決め育成することも重要。

救援・支援ネットワーク

保健、医療、生活問題の支援ネットワークづくりを行う。
保健師は個々の受け持ち事例についてアセスメントし、保健師間で共有しておく。
他の専門職種や地域のボランティアともパートナーシップを構築しておくことが大事。

災害時の保健師活動

災害各期のフェーズとは

緊急対策期(フェーズ0):発災後24時間以内  (フェーズ1):発災後72時間以内

応急対策期(フェーズ2):72時間から2週間まで (フェーズ3):2週間から2カ月まで

復旧・復興対策期(フェーズ4):2カ月以降

復興支援期 前期(フェーズ5−1):復興住宅への移動まで
後期(フェーズ5−2):復興住宅に移動してから

保健師は疾病予防、要援護者・療養者のケア、健康の維持・増進、生活環境の改善など、健康生活に関する支援を実施していく必要性がある。

緊急対策期(フェーズ0・1)の保健師活動

トリアージ
多数の傷病者が発生した場合、現場では以下のように緊急度や重症度に応じて優先順位を考慮し、搬送先を決定していかなくてはならない。

赤のタッグ(優先度1で最優先治療群)救急治療がただちに必要
黄のタッグ(優先度2で待機的治療群)4〜6時間以内の加療が必要
緑のタッグ(優先度3で保留群)あまり重篤でない傷病者
黒のタッグ(優先度4で死亡群)重篤な損傷のため現状では生存しえない者

また治療に大量の医療資源の投入が必要な傷病者
「生命は四肢に優先し、四肢は機能に優先し、機能は美容に優先する」

クラッシュ症候群
傷ついたり圧迫されたりした筋肉からミオグロビン(タンパク質)やカリウムなどが漏出して急激に全身に広がる。結果、腎臓や心臓の機能が悪化し死亡にいたることがある。

保健師は救護所への管内情報の提供を行う。また被災地外からくる医療ボランティアに対して情報提供、指示を含め、窓口として機能することが求められる。

応急対策期(フェーズ2・3)の保健師活動

① 避難所巡回と避難所の実態把握

定期的な健康チェックを行うほか、衛生環境に対するきめ細かい対応が大切。
食中毒や感染症等に留意しなくてはならない。

② 情報の整理・提供

被災者以外にも、医療チーム・行政組織・ボランティア・訪問看護ステーションなどからも情報が集まってくる。保健師は情報の整理を行い混乱を避けるために的確な情報提供を行う必要性がある。

③ 災害時に起こりやすい健康問題と保健師活動

深部静脈血栓症(DVT:エコノミークラス症候群)
低体温症
熱中症
感染症
ストレス関連障害
便秘
一酸化炭素中毒
粉じん
慢性疾患(糖尿病・慢性腎不全・高血圧・喘息・てんかん・統合失調症・難病・結核・・等)
アルコール依存症
生活不活発症

災害復旧・復興期の保健師活動

復旧・復興対策期(フェーズ4)の保健師活動

生活再建に取りかかる時期であり保健所や保健センターも通常業務を再開する。
被災者・支援者ともに疲労感が最も強い時期。

復興支援期(フェーズ5−1・5−2)の保健師活動

被災者が避難している地域においては、新たなコミュニティーを構築したり、関係機関との連携を図ることが大切。

復旧・復興期、復興支援期の特徴的な健康問題と保健師活動

① 仮設住宅・在宅生活者への活動
早めにセルフヘルプグループを立ち上げるなど、コミュニケーションの場を作ることが大切。また仮設住宅の生活の実態を観察・把握し、居住者の生活の構築、健康維持を支援するのは保健師の役割。

在宅医療の継続ケースや障害者の確認、一般家庭への巡回健康相談を実施し、新たな健康問題の拡大を予測した予防活動、慢性疾患の悪化予防につとめる。

② 被災者の心のケア
精神的なショックから災害症候群(茫然自失、無感動、無表情)が出現する。
その後、恐怖、悲哀、喪失体験などを表出。保健師が十分受けとめていくことが求められる。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)については1カ月以上、強い恐怖や絶望などの心理状態が続き、建設的な生活が送れなくなっている場合は、治療が必要と考えられる。
生活支援、精神医療援護、精神保健相談、カウンセリング等を実施することが有効である。
高齢者に関しては生活環境の変化による認知症の発現や症状の進行に留意しなくてはならない。

③ 長期支援継続のための連携・調整
長期化すれば被災者の生活支援や心の健康支援が必要となってくる。

第108回 保健師国家試験【午後 34】の問題

地域健康危機管理ガイドラインにおける保健所の健康危機管理業務の4つの側面のうち、「健康危機による被害の回復」で行われる活動はどれか。2つ選べ。

1. 防疫活動
2. 手引書の作成
3. 監視体制の改善
4. 飲料水の安全確認
5. 人材の資質の向上

答えは 3 と 4

保健所の健康危機管理業務の4つの側面とは

① 健康危機の発生の未然防止
② 健康危機発生時に備えた準備
③ 健康危機への対応
④ 健康危機による被害の回復

1. 防疫活動は、③の健康危機への対応 *選択率:54.7%
2. 手引書の作成は、②の健康危機発生時に備えた準備 *選択率:16.9%
3. 監視体制の改善は、④の健康危機による被害の回復 *選択率:55.2%
4. 飲料水の安全確認は、④の健康危機による被害の回復 *選択率:53.0%
5. 人材の資質の向上は、②の健康危機発生時に備えた準備 *選択率:20.2%

*3と4を選択し正答したのは、16.0% *

クエスチョン・バンク 保健師国家試験問題解説 2023 第15版
「健康危機管理」を復習する

健康危機管理の定義 P400

平成9(1997)年に定められた「厚生省健康危機管理基本方針(H13年以降は厚生労働省健康危機管理基本方針)」における定義とは・・・

医薬品、食中毒、感染症、飲料水、その他何らかの原因により生じる国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防、拡大防止、治療等に関する業務であって、厚生労働省の所管に属するもの

101回午前17:健康危機管理指針の策定のきっかけは?

  1. 東海村臨界事故 ⇨ 平成11年に起こった臨界事故
  2. 阪神・淡路大震災 ⇨ 平成7年に起こったマグニチュード7.3の地震
  3. 新潟県中越沖地震 ⇨ 平成19年に起こったマグニチュード6.8の地震
  4. 新型インフルエンザ(A/H1N1) ⇨ 平成21年に流行した感染症で日本では200人が死亡

答えは 2 ⇨ 平成9年以前に起こったものは、阪神・淡路大震災のみ

健康危機管理の体制 P401~402

104回午前21:災害時の健康危機管理における保健所の役割は?

  1. 避難所の指定 ⇨ 市町村長が指定
  2. 傷病者の広域搬送 ⇨ 災害派遣医療チーム(DMAT)の役割
  3. 災害対策本部の設置 ⇨ 都道府県知事および市町村長が設置
  4. 健康被害の拡大防止

答えは 4

保健所の役割は、健康危機発生の未然防止、健康危機発生時に備えた準備、健康危機への対応、健康危機による被害の回復、人的・物的被害の拡大防止等を行う。 情報通信手段の確保は大事。

107回午前12:健康危機の発生の未然防止とは?

  1. 緊急相談窓口の設置 ⇨ 発生したあとに設置
  2. 感染症サーベーランス ⇨ 監視業務を行うことで、発生を未然に防止
  3. 避難行動要支援者の把握 ⇨ 平常時に行う備え
  4. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)のある人への支援 ⇨ 発生後に行われる支援

答えは 2

健康危機発生時に行われる対応は、医師からの届出の受理、入院措置、就業制限、食中毒発生時の調査、営業停止許可の取り消し等を行う。その他、と畜場・旅館業・給水・病院・廃棄物処理業等の許可の取り消しを行うこともある。

リスクマネジメント P403

107回午後14:事業継続計画(Business Continuity Plan : BCP)とは?

  1. 労働者災害補償保険の記載が必須である ⇨ 労働者の負傷、疾病、障害、死亡等を補償する制度のこと
  2. 災害対策基本法に策定義務が明記されている ⇨ 記載されていない(内閣府のガイドラインに示されている)
  3. 策定した計画は5年ごとに改定しなければならない ⇨ 策定義務はない
  4. 緊急事態発生時に、社会機能をできる限り維持するための業務続行の計画である

答えは 4

事業継続計画は、被害を最小限に抑えながら事業者が事業を遂行するための計画である。

災害の定義と分類 P404

103回午後31:特殊災害に分類されるのは?

  1. 原子力発電所の事故による放射線の漏えい ⇨ 特殊災害
  2. 石油タンカーの座礁による海水の汚染 ⇨ 特殊災害
  3. 列車の脱線による交通網の障害 ⇨ 人為災害
  4. 大雨による河川の氾濫 ⇨ 自然災害
  5. 地震による橋の崩落 ⇨ 自然災害

答えは 1と2

自然災害:台風、集中豪雨、洪水、地震、津波、雷、火山噴火、豪雨、森林火災・・・

人為災害:化学物質事故、都市大火災、ビル・地下街火災、炭鉱事故、交通災害、工場の爆発事故、マスギャザリング災害(群衆による将棋倒し等)

特殊災害:放射性物質の放出事故、重油流出事故、有毒化学物質の飛散、CBRNE(シーバーン)災害、感染症の世界的流行、戦争等

CBRNEとは、chemical(化学)、biological(生物)、radiological(放射性物質)、nuclear(核)、explosive(爆発物)の略のこと。

文 献

『標準保健師講座』編集室:「2023年版 医学書院 保健師国家試験問題集」、医学書院、2022.
医療情報科学研究所:「クエスチョン・バンク 保健師国家試験問題解説 2023-24 第16版」メディックメディア、2023.
一般財団法人 構成労働統計協会「国民衛生の動向・厚生の指標 増刊・第69巻9号 通巻第1081号」、2022.
医療情報科学研究所 編:「保健師国家試験のためのレビューブック 2023-24 第24版」、メディックメディア、2023.
医療情報研究所 編:「公衆衛生がみえる 2022-2023」、メディックメディア、2022.
荒井 直子 他 編:「公衆衛生看護学.jp  第5版 データ更新版」、インターメディカル、2022.
車谷典男・松本泉美 編:「疫学・保健統計ー看護師・保健師・管理栄養士を目指すー」健帛社、2016.

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